2013年6月19日水曜日

ブラジルに広がるデモの背景を考える


コンフェデ杯に合わせるように、ブラジル各地でデモが続いている。専門家ではないけれど、その背景を考えてみたい。

きっかけはコンフェデ開幕前、サンパウロでバス運賃の値上げに反対するデモが起きたこと。値上げ幅はインフレ率より低かったものの、大勢の市民が市内の目抜き通り「パウリスタ通り」に集まって行進した。

いったんは収まったかと思われたのだが、開幕戦があったブラジリアでデモが起き、連鎖的に各地へ拡大した。

ブラジル人とじっくり話をすると、意外と愚痴が多いのに気づく。公共交通機関が整備されていないので通勤は大変。サンパウロ圏は人口2000万人を抱えるのに、地下鉄は計78キロ、5路線しかない。ちなみに東京は総延長300キロだ。慢性的な交通渋滞は大気汚染にもつながっている。

インフレ率も高いので生活は楽ではない。サンパウロの物価はニューヨークよりも高いと言われている。

政治家や役人の汚職はひどく、福祉や教育への不満も大きい。サンパウロのヘリコプターの数が世界一多いのは、貧富の差の激しさを示している。交通渋滞を避けるために多くの金持ちがヘリを使っているのだ。

本来は陽気で、楽観的な国民だ。あるブラジル人の知人は「政府が税金を上げるとブツブツ文句を言うだけなのに、自分が応援するサッカークラブが負けると暴動を起こすのがブラジル人だよ」と半ば自嘲気味に言っていた。
  
それが、街に出て不満を訴えている。

押さえつけられて貧困に苦しむ人たちがついに爆発したのか。「中東の春」のように政府を転覆させるような勢いなのか。

そうではない気がする。

ブラジルでは左派政権が続き、労働組合の力がすごく強い。労働者の権利を守ろうと、デモはたびたび起きている。一種のイベントのようで、友人も「楽しいからよく参加する。警察と衝突したら横道に逃げるのがいい」などと屈託なく話していた。

労働者の社会保障は手厚いし、休みや残業代はきっちり保証されている。会社からは昼食代まで支給される。

ジャーナリストの組合もあり、彼らの労働時間は法律によって1日5時間までと決められている。残業を含めても1日7時間までだ。そんなんでいいのか。

外国企業が一番頭を抱えるのがブラジル人の雇用で、数々の手当と社会保障を支払うと、実質的に給料は2倍近くになるのだ。「俺もブラジル人になりたいよ」というのが雇用する側の外国人たちのぼやきだ。

経済は着実に成長しているし、貧困率や文盲率も大幅に改善している。外から見れば、国は確実に上向いており、10年前から比べれば生活もかなり良くなっているはずなのに、国民は納得していないようだ。

国の手厚い保護政策を国民が要求し続けたギリシャは財政破綻したが、根本的なメンタリティーはブラジルも大して変わらないと感じる。ラテン系だしね。

政府への不信感があるのは確か。だけど、デモは本気で怒るというよりもここぞとばかりに便乗して繰り出している人が多いのではないか。怒りが爆発するような、直接的な大きな失政は見あたらないからだ。

映像を見ていると、警察はかなり抑制的に対応しているように見える。むしろデモ参加者の側に危ない連中が多い。

店を壊して商品を盗む輩もいるし、テレビ局の中継車に放火する連中もいて、やりたい放題だ。「暴力はやめよう」と訴えて止めようとする冷静な人たちとつかみ合いも演じている。

デモ隊と警察の衝突では、催涙弾を発射して追い払う警察が非難の的になることが多い。だけど、ブラジルではただ暴れたいだけの連中も多く、「サッカースタジアム内での殺人」で書いたように、一概に警察だけが悪いとは言えない。

ブラジルで生活していると、みんなちゃんと働かないし約束も守らないから物事が進まない。賃上げを要求するストライキも頻発してビジネスが止まる。

スタジアム建設もインフラも大幅に遅れてみんな文句を言うけれど、工事しているのは自分たちブラジル人じゃないか、と思ったりもする。

政府が腐敗していて怒る気持ちは分かるけど、だからと言ってデモ隊に肩入れする気も起きないのが正直な気持ちだ。

気が済んだら、そろそろ仕事に戻ってはいかがだろう。

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